LOGINそして2歳年上の幼馴染の婚約者がいる。
見た目はお子ちゃまだと婚約者に言われるけれど、もう19歳だし、王家主催の夜会ではしっかりと貴族女性らしく振舞おうと意気込んでいた。
そんなある日、いつものように朝の食事をとろうとホールに入ると、すでにお父様とお母様が座っていたので私も急いで2人に挨拶をする。
「お父様、お母様、おはようございます」 私は完全にお母様に似たようで、髪色などもお母様と同じホワイトブロンドなので、まだまだ若々しいお母様と並んでいると姉妹みたいと邸の者にも言われる時がある。そんな私の姿を見て両親は優しく微笑み、お父様が嬉しい報告をしてくれた。
「ああ、おはようティナ。今日は午後からドミニクが来るんだ。お前も一緒にお茶でもどうだい?」「ドミニク様が?!もちろんご一緒しますわ」
「ティナは本当に閣下の事がお好きね。でもご迷惑をかけてはいけませんよ」
両親は一人娘の私をこれでもかと言うくらい愛情を注いで育ててくれたけれど、未だに子ども扱いをされる時があって、正直ドミニク様の前では少し恥ずかしい時がある。「……分かっていますわ、お母様。今日はどんなお話をしてくれるかしら」
ドミニク様は独り身なのもあって、他国にも頻繁に旅行へ行くので、その時の色んなお話を聞かせてくれるのが私の楽しみでもあった。でも楽しみなのはお話だけではない。
ドミニク・オーレンブルク公爵閣下――――幼い頃からずっと慕っていた、私の想い人。お父様の古くからのご友人。
ブルーグレーの長めの髪を横で結びながら流し、穏やかな人柄がにじみ出ているかのような細い目の麗しいお方。
現国王陛下の王弟殿下でありながら、政権争いは自分には向かないと早くに王位継承権を捨て、王族公爵位を授かってひっそりと生活している。
お父様より少し年下で、私とは15歳も年が離れていた。
結婚してすぐに奥様をご病気で亡くされて……ちょうど私が4歳の時だったかしら。
いつも朗らかで素敵なドミニク様が背中を丸めて悲しみに沈む姿がとても痛々しくて、何とか彼を元気づけたくて……私はベンチで項垂れるドミニク様の横に行き、彼の顔を両手で挟みながら幼稚な約束を持ちかけた。
「……おじ様、げんきをだして……ティナがずっとおじ様といっしょにいます。大きくなったらおじ様のおくさんにもなってあげる!」 ドミニク様の頭をいい子いい子して笑った。今思えば15歳も年上の方にするような事ではないので、恥ずかしくて仕方ないけれど……ドミニク様は力なく微笑んで、涙しながら私をぎゅうっとして――。
「……ありがとう、ティナ……私も、君を助けるよ」「約束ね!」
「…………うん、約束……」
そう言いながら指切りをしたのを今でも鮮明に覚えている。
きっとあれはドミニク様の精一杯だったのよね。
自分も苦しいのに幼い子供の約束に付き合ってくれて……ハラハラと美しい涙を流すドミニク様に見惚れていたのを思い出す。
思えばあれが私が恋した瞬間だったのかもしれない。 男の人の涙がこれほどに美しいと思わなかったし、子供心に私がそばにいてずっと笑わせてあげたいって思うようになったのよね。それからもドミニク様と私の家族とのお付き合いは続いている。
私は本当に彼が大好きで奥さんになりたかったけれど、亡くなった奥様の事をずっと想っている事も知っているし、私には親同士が決めた婚約者もいて、この想いが実る事はない。
とっくに諦めている。
それでもドミニク様に会える時は、胸が高鳴って嬉しくて仕方ない。
胸の中で想う分にはいいわよね……この気持ちはお墓まで持っていこうと心に決めている。
食事をとりながらそんな事をぼんやり考えていると、執事のラッセルが入ってきて、私に一通の手紙を渡してきた。「お嬢様、フェンデルバーグ公爵家のご令息からたった今届きまして」
フェンデルバーグ公爵家の令息とは、私の婚約者であるヤヌシュ・フェンデルバーグの事だ。「ありがとう、ラッセル。ヤヌシュから……何かあったのかしら」
「早く開けてみた方がいいだろう」
私はお父様の言葉に頷き、すぐに手紙を開封した。 手紙に書いてあった内容は、「7日後の王家主催の夜会には自分は一緒に行けないから、誰か他の人を探してほしい」という内容のものだった。 「体調でも悪いのかしら」 こんな手紙を送ってくるのは初めてだし、私は戸惑っていた。「何か理由があるのかもしれないので一応公爵家に連絡をしてみるけど、今回は違う相手を探した方が良さそうだ」
「そうね……もしパートナーが不在という事になったら大変ですもの」
違う相手と言っても私はヤヌシュと婚約しているので、怪しまれる相手は選べないわよね……そうだ、ドミニク様にお願い出来ないかしら?ずっと夜会には行ってないみたいだけど、私が相手を探していると言ったら了承してくれるかもしれない。
そんな事を考えていると、予定通り午後からドミニク様が颯爽とやって来たのだった。
「やぁ、こんにちは。ティナも元気そうだね」「こんにちは!ドミニク様もお変わりなさそうで何よりですわ。今日は天気もいいし、庭園でお茶をしましょう」
「いいね、ティナが案内してくれるのかい?」
「もちろん!」 私は嬉しくてドミニク様の腕を引き、庭園まで案内をする。両親はそんな私の姿を見て呆れていた。
「こらこら、ティナ。ドミニクが驚くだろう」「閣下に失礼ですよ」
両親の声を聞いて、ドミニク様がお父様とお母様に、大丈夫と笑顔で手を振ってジェスチャーをしていた。やっぱり優しいわね……こんなやり取りもヤヌシュと結婚したら出来なくなる。
そう思うと胸が酷く痛んだ。
いい加減この想いに区切りをつけなければいけないのに、ドミニク様の優しさに甘えてしまっている事はよく分かっているつもり。
でも、まだ、もう少し…………あと少しだけ、この穏やかな時間に浸っていたい。
庭園に移動して、両親と私とドミニク様でお茶をしながら色々な話をした。
お父様とお仕事の話をしている姿は本当にカッコいいし、大人な魅力にうっとりしてしまう。
「ティナ?」 ドミニク様の魅力に惚けていると、私の頭に手を乗せて心配してくれる。大きな手……昔はこの手を握って歩いても許されたけれど、今はさすがにもう出来ないわね。
そんなところも少し寂しい。
「あ、ごめんなさい。そうだわ、ドミニク様にお願いがあるのですけど……」「うん、なんだい?」
「朝に婚約者のヤヌシュから、7日後の王家主催の夜会に一緒に行けないって手紙が来て……」
「え、本当に?」
ドミニク様は凄く驚いた様子で、口に手を当てて何か考えているようだった。「理由は書いてなくて。でも王家主催の夜会だし、出席するって返事をしてしまったから……もし良ければドミニク様にパートナーを務めていただけたらなって」
「ティナ」
お母様が、さすがにそれはご迷惑だと言わんばかりに私を制止した。でもそんなお母様に優しく微笑みながら、ドミニク様が快い返事をしてくれたのだった。
「いいよ、ティナの頼みなら。こんなおじさんでいいのかい?」「おじさんなんかじゃありません!それに行くならドミニク様がいいのです」
「まったくもう……閣下も断ってくださってもいいのですよ?」
お母様が呆れたように言うけれど、ドミニク様は笑顔で一蹴してくれる。 「大丈夫です。ティナが困っている時は助けるって、昔約束したんですよ。それに私も最近の夜会がどんな感じか見てみたいのもありますし」 あんな昔の約束を覚えてくれていたなんて、とても嬉しかった。夜会などはパートナーが必須となるので、ドミニク様は奥様が亡くなられてからほぼ夜会に出る事はない。
公式な行事の時は出席されるけれど……そういう時は滅多にお目にかかれない麗しい公爵閣下なので、女性が放っておかないのだとか。それでも浮いた話の1つも出てこないのよね。
どれだけ奥様を一途に想っているかをヒシヒシと感じ、私の入る隙間など少しもないんだなと思い知らされる。
私にも婚約者がいるのだから今回の夜会を一緒に出席して、一生の思い出にしよう、そう決意して夜会の準備を進める事にした。
この時の私は、まさかその夜会で、自分の人生が一変するとは思ってもいなかったのだった。
彼女が姿を消してから数日経ち、公爵邸はとても静かになっていた。 ノエルは元気がないし、リジーも大人しい。 料理長のディエゴも口数が少なく、執事のグラースは前にも増して口数が減ってしまった。 ティナがいない事でこんなに皆が水を与えられていない植物のように萎れてしまうのかと、彼女の存在の大きさを実感する。 もちろん私も……いつ帰ってきてくれるかは伝えられていないので、待つしかない。 ただ待つしかないというのは辛いものだな。 誰に言ったとしても自業自得なので仕方ないのだが。 自虐的になりそうなのを振り切るように、執務室で兄上に手紙をしたためていた。 「グラース、仮に私が王族に戻ると言ったらどうする?」 「は……王族に?」 「ああ。大切な者を守る為に必要になるかもしれない」 「……それでしたら歓迎いたします」 グラースは清々しいまでの笑顔を向けた。 彼は執事らしく余計な事はあまり話さないし、表情も崩さない。 そんな彼がこのような笑顔を向けてくるとは思わなかったので、面食らってしまう。 「なぜだ?」 「白の魔女様とご婚約されて、さらに権力を得たいが為に王族に戻りたいのでしたら反対でした。旦那様が王位継承権の為に苦しんできたのも知っておりますので……しかし大切な者の為ならば、お立場に執着する事もなく、必要なくなれば捨てる事も出来ましょう」 「そうか」 「はい。きっとクリスティーナ様も旦那様の決断を後押ししてくれるでしょう」 「そうだな。彼女はそういう人だ……まだ決めかねているが、彼女が戻ってきたら自分の気持ちを話してみるよ」 「それがよろしいかと」 グラースと話し終えた後、執務室で仕事を終え、寝室へと向かった。 ベッドに腰をかけると、窓の外には煌々と光る満月が。 ちょうどティナと結ばれたのも満月―――― あの時の彼女もこの世のものとは思えないほど美しく、可愛らしかった。 たどたどしく私への気持ちを口にして……早く会いたい。 そんな事を考えながら窓の外を見ていると、ほんの一瞬だけ邸の外が光り輝き、すぐに消えた。 恐らく執務室の窓から……まさか…………逸る気持ちを抑えながら執務室へと駆けていったのだった。 ~・~・~・~・~・~ 彼女じゃなかったらどうしようという気持ちと、戻っていてほしいという気持ちがせめぎ合う。
ティナが倒れ、アロッサ村から急ぎ邸へ帰邸するもベッドに寝かせた彼女はまるで起きる気配がなかった。 「我が見ておるから、大丈夫だ」 「申し訳ございません」 オブシダン様のご厚意に甘え、寝室を後にする。 カルロ王子と話す事があり、ティナのもとを離れなければならなかったのだ。 しかしこの時にカルロ王子が放った一言が呪いのように私を蝕んでいく。 「あなたはクリスティーナに相応しくないよ」 何も言い返せなかった。 相応しくあろうと思っているのに、彼女に対して何もできていない。 ティナが他国から狙われても、私は共に逃げる事しか出来ない。 この手で守る為の地位もなく、共に生きるだけとは……本当に彼女に相応しいと言えるのか? そんな思考がぐるぐるしながら目覚めたティナと寝室に連れて行くと、彼女から一番聞きたくない言葉を告げられてしまう。 「きっと私の力も解放されると思うのです!そうすればドミニク様のお役にも立てますし……!」 私が頼りないから、守ってあげないといけない存在になっているというのか―――― 何かある度に彼女の力に守られながら生きていけばいいと……? 「役に立つとか考えなくてもいいんだ、君がそばにいてくれるだけで私は幸せなんだから」 まるで自分への言葉のようだ。 地位など必要ないと捨てて生きてきたのに、今になって惜しくなったというのは虫が良すぎるのではないかと、何度も自分に自問自答する。 最愛の人を抱いているのに、自分が何を求めているのかが分からなくなる。 まだ疲れが残っているティナは私に抱かれた後すぐに意識を手放した。 私はそっと寝室を出て、執務室の方へ向かう。 途中で執事のグラースに会ったので、お酒を持ってくるように指示をし、デスクチェアに腰をかけた。 もうすぐ満月が近いのか、窓の外は月明りが強く、あまり星は見られない。 「旦那様、お酒をお持ちい
私の口の中で質量が増していく彼の剛直は、どくどくと脈打ち、舌の動きに合わせてビクビクと震えている。 可愛い。 もっと気持ちよくしてあげたい。 だってコレは私のだから……あふれ出る精も私を気持ちよくしてくれる楔も、全部私だけのもの。 思い切り吸い上げると、嬌声を我慢出来ない彼は腰を浮かせて甘美な刺激に身を任せながら、鳴いている。 「はぁ、あっ、あぁ……ティナ……だめっ、もう……でる、あぁ……っ!!」 次の瞬間体を震わせ、私の口の中へ淫熱を発散した。 口の中は彼の精でいっぱいになり、喉を鳴らしながら飲み干していく。 「ん、んんっ……おいひぃ」 もっと、もっとほしい。 まだ昂りがおさまらない熱杭を綺麗にするかように舌を這わせていく。 ぴちゃぴちゃと卑猥な音が、また私の興奮を押し上げていく――――彼は私が離れそうにないので、されるがまま、快楽を享受していた。 「ティナ……きもちぃ……はぁ……ああっ……」 彼の理性がなくなるまで責め立てたい。 いつもならこんな意地悪な事を思ったりしないのに……契約印を刻んだから?彼は自分のものだと強烈に感じる。 もっと彼がほしい。 「あっ、だめ、またイクッ……あぁぁ!」 私の頭をつかみ、喉の奥へ、奥へと注ぎ込んでくる。 上からも下からも彼の精がほしくて、飲み干しながら下半身が疼いて仕方なくなっていく。 同時に肩にある魔女の証も痺れ、体中が熱い―――― 「んっ、ん…………」 体を震わせながら欲望を最後まで吐き出し、胸を上下させ、息を整えるドミニク様。 まだ……彼の頭の中が気持ちいい事しか考えられなくなってほしい。 私でいっぱいにしたい。 私は下着を脱ぎ去り、立ち上がって彼の股座に跨り、スカートの裾をたくし上げた。 そしてすっかり濡れそぼった自分の蜜口と、彼の昂りの先端がキスしている様を見せつけた。 「は……ぁ…………んっ…………」 彼の瞳が動揺で揺れている……互いの結合部がぬちゅぬちゅと音を立て、挿入りそうで挿入らない。 彼は待ちきれない様子で、どうにか挿入れようと腰が自然と動いていた。 「ティナ……っ、あっ……はやく……っ」 「ドム、ほしい?」 「ほしっ、はやく……挿入れてっ…………!」 「ふふっ、いい子……待てが出来たいい子にはご褒美をあげないと」 彼の唇に吸
「ドミニク様、何も言わずに消えてしまい、ごめんなさい」 「……あの時の会話を聞かれていたとは思わなくて、寝室に戻った時に君がいなくて、血の気が引いたよ。邸も物凄い騒ぎだったし、あまりに私が狼狽えていたのを見かねたリジーが教えてくれた」 「リジーにも大変な役目を与えてしまったのですね。あとで謝らなくては」 「いや、もとはといえば私が悪いんだ。君にあんな話を聞かせてしまうなんて……深酒し、その事に気付かないとは情けない。グラースにも窘められていたのに。ノエルやリジーにも散々怒られてしまったよ……」 「そうなのですか?私もダンの庵に行って、彼女に怒りを吐き出してしまいましたけど……うふふっ」 私が笑うと、ドミニク様はいよいよ弱ったような表情をして、「オブシダン様にも怒られそうだな」と呟いた。 「ダンはドミニク様の気持ちを慮っていましたわ。何もなしにそのような事を言うとは思えないと……そのおかげで私も少し冷静になる事が出来たのです」 「そうか。では感謝しなくては」 「ドミニク様、私がダンのところに数日滞在したのは一人になりたいのもありましたが、エデンに行ってみたいのもありましたの。その事も含めて、ドミニク様と沢山お話したい事があるのです」 「私も、君に話をしなくてはならない事があるんだ。寝室に行こうか」 「ええ」 私は愛する人に抱えられたまま寝室へと移動した。 その道すがらノエルや邸の者たちが私が帰って来た事に気付き、皆が嬉しそうに声をかけてきてくれたのだった。 なかなか寝室にたどり着けず、ドミニク様が「ちょっと急いでるから」と言うと皆が何かを察し、私たちは寝室へと急いだ。 絶対変な方向に誤解されてしまったような気がする……恥ずかしいけれど、今はそれどころじゃないので煩悩を振り払った。 寝室に着き、ゆっくりとベッドにおろされ、私の隣にドミニク様が腰をかけた。 「ふふっ。こうしていると、ドミニク様が実家で私にプロポーズをしてくれた時を思い出します」 「あの時は必死だったからね。今も必死だけど」 「そうなのですか?」 「そうだよ。いつでも必死だ……君を私のもとにつなぎとめておくのに。どうすれば私のティナでいてくれるだろうかって」 「? 私はいつでもドミニク様のものですけど……」 私の言葉にドミニク様が心底苦笑しているように見える。
『今、エデンの存在を知る人間が増えているのです。そしてここを私物化しようと企んでいる者がいる』 「?!」 『この地は私や魔女、古からの生き物にとっての聖域――――ここが侵されてしまうと力は弱り、もはや監視役としての役目を果たす事は出来なくなるでしょう』 「そんな……」 エデンを私物化しようとしている者がいるの? それは誰なのだろうかと聞くまもなく、神は話を続けていった。 『エデンの生態系を乱した者は処罰され、事なきを得ましたが、先日またこの地で人間の気配を感知しました。オブシダンだけでは監視しきれません……』 「我が呪いを受け、幼女の姿になってからエデンの存在を隠す事が出来なくなってきたのもあるのだろう」 「ダンの呪いを解く方法はないの?」 「あるにはある…………しかし……」 「しかし?」 「……と、とにかく、それは難しいのだ!」 どうしたのかしら、顔が真っ赤だわ。 これ以上聞いても無理に聞き出したいわけではないので、質問を引っ込める事にした。 エデンの為ではなく、ダンの為に呪いを解いてあげたいと思ったのだから。 「でも、私はこの通り自分自身に呪いをかけているので、力が全て戻っておりません。今日は満月なのでかつての姿ですが」 『それは心配要りません。そなたの呪いはもうすぐ解けます』 「え? 本当ですか?!」 『そなたも分かっているはずです。もう自分の中で答えが出ている事を――――』 「………………」 私が人と共存して生きていきたいと願っている事……お祖母様の事は本当に不幸な事件だったけれど、それでも、何度生まれ変わっても人と生きていきたいと願っている私の気持ちを分かっているのね。 この気持ちを消す事が出来ないなら、抱えて生きていくしかない。 どんな人生が待ち受けていようとも。 (お祖母様、これでいいのよね……?お祖母様の御心は私が全て受け止めて生きていくから――) そう思った瞬間、私の胸の奥から温かな小さな光が浮かび上がり、その光はやがて私の全身を包み込んだ。 そして花火のように弾けて消えたのだった。 光の粒子が煌めき、とても綺麗―――― 「今のは?」 『そなたにかけられた呪いが消え……エスメラルダが解放されたのです』 「メルー…………」 ダンの方へ視線を移すと、大粒の涙を流
その日は一日中、体の魔力が増幅されている感覚に襲われ、髪はプラチナに光り輝いていた。 ラディも体が大きくなり、羽は七色に変化している。 ダンの庵にいるのに、まるでエデンに行った時のよう。 「満月の日はいつもこうなる。私の呪いも弱まり、姿が元に戻るのだ」 「まぁ!本当ね。日中は月が見えないとは言え、満月だから日が高くても変化するの?」 「そういう事だ。ここはエデンが近く、影響を受けるのだろう」 確かにドミニク様の邸では満月であっても姿が変わるという事はない。 この場所が特別なのね。 ラディは大きくなった自分の体であちこち飛び回れるのが嬉しいのか、庵から元気に飛んで行った。 『夜には戻りますので――!』 飛び立つ後ろ姿は、本当に神鳥のよう。 ここにいると昔の自分に戻っていくようで、現実を忘れていってしまう感覚に陥る。 より魔女の血が濃くなるというか――――ここに来てから家族やドミニク様の事を思い出す機会が減っている気がする。 私は少しだけ危機感を覚え、エデンに行ったら次の日にでも邸に戻ろうと考えていた。 ダンは今までずっとここでそうやって過ごしていたから、私たちよりも時の流れを感じずに過ごしていたのではと思う。 ヤヌシュの件で私たちと接触する機会が増え、だんだんと同じ時間軸を生きるようになってはきているけれど、彼女の時間の感覚は私たちとは少し違う感じがしている。 ここは楽園――――苦しみも悲しみもない。ただ穏やかに時が流れていた。 でも私は愛する人のそばがいい。 悲しい事があっても苦しい事があっても……ここに来た時はドミニク様に対して怒りの感情と悲しみの感情が入り乱れていた。 でもそれでも、やっぱり忘れたくない。 彼を愛していた時間を。 お祖母様が人と繋がっていたかったのは、きっと私と同じ理由だったのかもしれない。 悠久の時を生きる世界から連れ出してくれる人を探し求めていたのね。 ダンも、そういう人を探しているのかしら? 「ねぇ、ダンには今まで、私にとってドミニク様のような存在はいなかったの?」 ――――ガタンッ!―――― 私が素朴な疑問を投げかけた瞬間、テーブルに足をぶつけてしまったのか、彼女がうずくまってしまう。 「……っ……突然なんの話だ」 「びっくりさせて、ごめんなさい。足は大丈夫?」 「問題ない
中に入れた彼の指がグイッと曲げられ、一か所をトントンし始める。 指の動きに合わせて、体中に電流が走ったかのような感覚に襲われ、嬌声が大きくなっていった。 「あ?や、ソコ…………だめっ…………あぅ……ひっ、あぁっ……!」 「ここが気持ちいいんだね、もっと気持ちよくなっていいんだよ」 「あぅ……あ、あっ……何か、キちゃう……~~~っ!」 今まで感じた事のない快感が襲ってきて、必死にドミニク様の頭にしがみついた。 そして体が激しく痙攣したと同時に、目の前でチカチカと火花が散っていく。 「ふっ……んんっ…………」 今のは何? さっ
涙を拭ってくれた手は私の頬に添えられ、やがてほんの少し触れるだけの口づけをかわした。 初めてのキスが愛する人で本当に幸せ。 「ふふっ、顔が真っ赤だ」 「仕方ないのです!初めてなのですから……」 「ふーん。ヤヌシュ君ともしたことはないの?」 ヤヌシュとは本当に友達の関係だったし、向こうに子供だと言われていたので、そういう雰囲気にすらならなかった。 この年になってキスが初めてなんて、引かれてしまうかしら。 「ヤヌシュともした事はありませんわ。この年で初めてなんて、恥ずかしい」 「恥ずかしがることはないよ、誰にでも初めてはある。ティナにとってその相手が私で、本当に光栄だ
「ティナとヤヌシュ君の婚約は、陛下の了承の元、解消する事が無事に決定したよ」 婚約破棄騒動があってから2日後、お父様が朝の食事の席で私に報告をしてくれた。 「そうですか」 お父様からの報告にとてもホッとしている自分がいる。 あんな事があってこれ以上婚約者でいる事は不可能だし、何よりお互いに想い人がいる状態なのだから、この婚約は解消した方が良かったのよね。 ヤヌシュの方にはナタリア嬢のお腹に彼の子供が宿っている。 不誠実な事をしていたとは言え子供に罪はないから、彼らの幸せを祈る事にしよう。 「まさかもうお相手のお腹に子供がいるとは驚きだけどね……」 私はこの婚
バタバタと王宮内を走り抜ける。 たしか裏庭にガゼボがあるから、早くそこへ行きたい……ほとんど人通りのない廊下を通り抜けて裏庭のガゼボにたどり着く。 そして中にあるベンチに座り、項垂れた。 「はぁ……はぁ…………っ」 荒い息を整えて、今の状況を頭の中で整理してみる。 一緒にいたナタリアという女性と結婚したいから、私との婚約を破棄したいと言うヤヌシュの顔は、今まで見た事もないくらい真剣で蕩けるような表情だった。 私には決して向けられることのなかった顔――。 本当に真実の愛を見つけたのね。 それは幼馴染として祝福してあげなければならなかったのかもしれない。 ただ、何もあの